「アウトソースは採用の代替になる」KADOKAWAがLEACTのインハウスサービスを選択する理由

株式会社KADOKAWA

出版、アニメ・実写映像、ゲーム、Webサービス、教育・EdTechなどの事業を展開する総合エンターテインメント企業である株式会社KADOKAWA。世界中から才能を発掘して多彩なIPを創出し、さまざまなメディアで展開。創出したIPをテクノロジーの活用により世界に届ける「グローバル・メディアミックス with Technology」戦略を掲げ、IP価値の最大化を推進しています。

KADOKAWA法務部には大量の契約書チェックや法律相談などが寄せられます。本記事では、KADOKAWAが法律事務所LEACTのインハウスサービスを活用する理由や、アウトソースすることの本質について、法務部長の片岡様、IP事業法務課 課長の吉池様、グローバル&デジタル事業法務課 課長の松森様の3名に聞きました。
片岡
玄一
グループ内部統制局 法務部 部長
SIer、移動体通信キャリア、Webサービス事業者等を経て、現在は株式会社KADOKAWAにて法務部門を管掌。 共著:「良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方【改訂第3版】」(2024年/技術評論社)
吉池
まり子
グループ内部統制局 法務部 IP事業法務課 課長
雑誌編集者、出版事業部門、知財部門を経て、現在はメディアミックス領域を主に取り扱う部門の法務を担当
松森
恵梨
グローバル&デジタル事業法務課 課長
グループ内部統制局 法務部 グローバル&デジタル事業法務課 課長メーカー及びIT企業等の法務部門を経て、現在はグローバル領域、デジタル領域を主に取り扱う部門の法務を担当

フルリモート・フルフレックスが可能にした子育てとキャリアの両立、行動指針に込めた想い

KADOKAWAの法務部の特徴を教えてください。
片岡
様:

当社の法務部には、2025年4月時点で、他部署との兼務者を含めると18名在籍しています。法務部は4つの課で構成されていて、契約審査や法律相談を担当する3つの課と、トラブル対応など対外的な折衝が発生する案件を担当する1つの課に分かれています。法務部のメンバーの多くが複数の課を兼務しているので、課ごとに独立性が強いわけではなく、緩やかに連携しながら仕事をする組織になっています。なお、コーポレート法務、知財、コンプライアンスなどは同じ局内の別の部署がそれぞれ所管しており、法務部と各隣接部署との兼務や連携も密に行われています。

また、当社のグループ会社の中には法務部門を持っていない会社も多数存在するため、そのようなグループ会社からの相談にも随時対応しています。

法務部独自の行動指針があると聞きました。これを設定した背景は?
片岡
様:

当社は全社的にフルリモート・フルフレックスなので、メンバー同士が直接顔を合わせる機会が非常に少ない中で、目の前の業務に一生懸命取り組んでいると、どうしても孤独を感じてしまいやすい環境にあると思っています。また、同僚がどのように業務を進めているかが見えにくく、何が良い行動で、何がチームから望まれていることなのかがわかりにくいことも事実です。

そういった点を補うために行動指針を定め、これに基づいて「われわれはこういう行動を良しとしている」ということを繰り返し伝えたり、行動指針に沿った行動を取ったメンバーを賞賛し合うこと、そして行動指針の改定を全メンバーで議論することなどを通じて、良い循環を作ろうとしています。

KADOKAWA法務部の行動指針(抜粋)
フルリモート・フルフレックスであることの良さはありますか?
片岡
様:

育児中のメンバーが多いチームなので、フルリモート・フルフレックスだと業務と生活の調整をしやすいというのが一番良さを感じる点だと思います。育児をしていると、どうしても業務を中断して抜けなければいけないタイミングが発生しますが、われわれはそれを当たり前のこととして受け入れています。同時に、自分が業務から抜けるタイミングで他のメンバーにフォローしてもらうことについては当然とは思わず、感謝の気持ちを持っている。このバランスを自然に取れていることは、われわれの誇れる文化だと思っています。 

また、フルリモート・フルフレックスのおかげでキャリアの断絶が最小限に抑えられるという効果も感じています。男女問わず、その時々の状況に合わせて、肩ひじをはらずに自分のできる範囲でパフォーマンスをフルに発揮できる。具体的には「育児のために何かを諦めなければいけない」ということは少なくなったと感じます。フルリモート・フルフレックスによって、できることの可能性は広がっているのではないでしょうか。

“イチ法務部員”として共に動く――LEACTのインハウスサービスの実態

LEACTを起用する以前は、法務部の業務はどのような状況でしたか?
吉池
様:

契約の審査件数がとても多く、さらにそれが年々増加している状況で、全員が日々の業務に忙殺されている状態でした。私は課長としてマネージメント業務をしながら自分でも年間500件くらいの契約審査や法律相談を受けつつ、チームにはそれ以上の仕事を振る、というような状況でした。

松森
様:

そのような状況だったので、大手の法律事務所に依頼していたこともありますが、依頼量も多かったこともあり、大きな費用がかかっていました。また、基本はメールベースのコミュニケーションなので、社内のメンバーの負担もそこまで軽減しなかったというのが実情です。

LEACTのインハウスサービスを活用したのはいつからですか?
片岡
様:

入社前から存在は認識していましたが、実際に依頼したのは私が入社して半年後くらいですね。すぐに依頼に踏み切れなかったのは、他事務所に依頼したときに業務負荷を軽減できたという実感があまりなかったこともあり、効果を得られるのか懐疑的だったということが理由でした。ですが、私自身、1人の法務部員として実際に手を動かしてみて、現状の業務量の多さを痛感し、部課長で話し合って、今われわれが最優先で取り組むべきは「量への対処」だという結論に至り、LEACTのインハウスサービスを採用しました。現在は複数の事務所に類似の依頼をしています。

複数事務所の法務アウトソーシングを使い分ける中で、LEACTにはどのような内容をご依頼いただいていますか?
松森
様:

どの事務所にどんな業務を依頼するかは、課長の裁量で決定して良いことになっているのですが、私は、内容が複雑で、ある程度時間をかけて検討をする必要があるものの、課内にすぐに対応できる人がいないような場合にLEACTに依頼しています。あとは、法令のリサーチなどもお願いしています。

吉池
様:

私の課は、とにかく対応する件数が多いので、課の一員として手を動かしてもらっています。

片岡
様:

「LEACTという外部の事務所に依頼する」という感覚ではなくて、「○○さんという一人の法務部員に業務をアサインする」というイメージが実態に近いですね。そういう意味では、LEACTにお願いすると手離れが非常に良く、かつ超高速でやってもらえるので、非常に助かっています。

松森
様:

まさに、何人いるか分からないくらいのスピード感でご対応いただいています(笑)。回答も端的かつ明快で、案件の性質を踏まえてコンプライアンス遵守の程度や許容性まで踏み込んだご意見を頂ける点に価値の高さを感じています。しかも、それが初回に受領する回答の時点で盛り込まれているので、追加で質問をする必要がありません。

法律事務所に依頼をするときは、情報を整理し、論点を明確にすることを心がけているのですが、その情報の整理や論点検討にもある程度時間がかかるので、案件数が多い状況においては依頼すること自体にコストがかかります。ただ、LEACTには、Slackによる依頼という性質も加わって、相当カジュアルに依頼をさせて頂いているので、依頼コストがほぼゼロなのも助かっているポイントの1つです。

インハウスサービスに加えて、プライバシー関連の業務もご依頼いただいています。
片岡
様:

世古弁護士にはGDPR関連の相談をしたのがきっかけでしたが、その他の個人情報やプライバシーに関わるさまざまな案件についても、社内メンバーの1人のような形で入ってもらっています。案件が正念場な時に、普通は社外の法律事務所に依頼しないような、泥臭く、しかし手を抜くことは決してできない業務を、期限が迫る中、ギリギリまで手を動かして同じ目線で一緒に対応してくれました。正直、世古弁護士の支援がなければ乗り切れなかったのではないかと思っています。やはり、LEACTの弁護士に対しては、仕事を「お願い」するのではなく、「一緒に取り組んでいる」という感覚の方が強いですね。

様:
LEACT世古

任された範囲については裁量をもらっているので、事業部の方や、その他の間接部門の方に対しても私が直接コミュニケーションを取って、その結果を片岡さんに報告します。メンバーの一員のような形で仕事を任せてもらえるので、とても動きやすいですし、やりがいもあります。

LEACTの弁護士のように、自律的に「一人のメンバー」として動ける外部の弁護士は稀だと思いますか?
片岡
様:

稀だと思いますし、やはりインハウスとしての実務経験があるからこそできることなのだと思います。LEACTの弁護士は、われわれが求めるマインドセットを持つ貴重な人材です。

ただ、ご依頼する前からわれわれが求めるマインドセットを持っているかどうかが分かっていたわけではないので、まずはトライアルから始めたのですが、すぐにLEACTのスピード感とクオリティの高さに驚きました。最近はこちらの感覚が麻痺してきているのですが、本当に驚異のスピードなんです。また、速さだけでなく、リサーチを依頼した際の深さと広さと速さが驚異的です。このすごさをトライアル期間中に知ってしまったので、これは法務アウトソーシング全体に対して懐疑的だったわれわれの考えを改めて、最大限活用しなければいけないと思いました。

“採用の代替”であり、社内にナレッジを貯める仕組み――インハウスサービスの真価

企業が法律事務所の法務アウトソーシングサービスを活用する際に求められる資質はありますか?
片岡
様:

依頼する企業側の姿勢に、法務アウトソーシングが持つ力を最大化できるかはかなり影響すると考えています。以前の私達がまさにそうだったのですが、従来の法律事務所の延長でアウトソースをしても、法務アウトソーシングに最大限価値を発揮してもらうことは難しいでしょう。

法務アウトソーシングは、従来の法律事務所を代替する存在なのではなく、「法務部員の採用の代替」なのだと感じています。優秀な人材を採用し、育成するには時間もかかりますし、どんなに手を尽くしても退職のリスクは常につきまといます。他方で、質の良いアウトソーシングサービスを契約すると、法務部門が内部で必要とするリソースを安定して提供してもらうことができるので、良い方を採用できたかのような効果を得ることができました。

スキルを持った優秀な人材を採用したと考えれば、依頼者とのやり取りの動線を法務部員と区別し、例えば法務アウトソーシング先の成果物を全件ダブルチェックしなければいけないという発想にはなりません。また、法務部員が法務の業務上必要とするシステムや、情報へのアクセスを制限しなければいけないとも思わない。例えば優秀で高い専門性を持ったメンバーがチームにいたら、一定の業務を裁量とともにお渡しすることは普通なので、特定の業務にLEACTの弁護士を直接アサインする行為もこれと同じことをしているに過ぎません。

様:
LEACT酒井

LEACTとしてインハウスサービスというサービスを始めたのも、まさに「採用の代替」になるサービスを提供したいという考えが背景にあります。サービス名をアウトソーシングや外注ではなく、「インハウスサービス」としたのもこの考えからです。

ここ数年は法務の採用難が続いており、仮に採用ができたとしても一定のミスマッチは避けられません。また、専門性の高い人材であってもフルタイムで雇うと持て余してしまうケースもあると思います。

そんな状況において、トライアルができる、合わないと思ったら依頼先を変えられる、業務が多いときだけ依頼できるといった外部ならではのメリットを提供しながらも、通常の法律事務所とは異なる「中の人」のような動き方を提供できれば、今までにない新しい価値を提供できるのではないかと考えました。

アウトソースは“使い捨て”や“ナレッジが蓄積されない”といったネガティブな意見もありますが、この点についてどう考えますか?
片岡
様:

「ナレッジが蓄積されない」と言われるときの“ナレッジ”が何を指すのか、曖昧なことが多いですが、よく確認すると、それが個人に帰属するスキルなどを指していることも少なくありません。その意味では、従業員にも辞めるリスクはある以上、アウトソースの方が雇用よりもナレッジ流出に弱いとは言えないと考えています。他方で、従業員個人に帰属していないナレッジについては、アウトソースによっても空洞化が進むことはないので、何を指して「ナレッジが蓄積されない」と指摘されているのか、私にはよくわからないというのが正直な感想です。

むしろ、アウトソースする際には、新入社員を迎え入れるときと同様に、少なくとも初回は案件の特性や自社特有の事情などを説明する必要がありますが、その際にその場限りの説明をするのではなく、プレイブック等の再利用可能なドキュメントを経由して情報を伝えるようにすれば、そのドキュメントはそのままナレッジになり得ます。

アウトソースすれば自然にナレッジが貯まるとまでは言えませんが、特に従業員の出入りが少ない環境では、法務アウトソーシングは暗黙知を形式知にするよいきっかけになるという意味で、ナレッジの蓄積のためにむしろ効果的なのではないかと思います。 

また、高いレベルでスピーディに業務を遂行する人の仕事を目の前で見るということは刺激になりますし、手を抜かずに信頼性の高い一次情報にあたることや、条文に立ち戻って解釈する姿勢など、見習うべき行動もたくさんあります。プロがリアルタイムに検討している様子を間近で見られること、いわば“机をバーチャルに並べて業務にあたる経験”自体が大きな財産になる。これもアウトソースの効能の一つだと考えます。

最後に、今後どのような法務チームを目指していきますか?
片岡
様:

われわれのチームで最も重視しているのは、“多様性”です。多様性を重視するというと、ともすれば綺麗事のように聞こえてしまうかもしれませんが、そういったことを言いたいわけではありません。先を見通すことが難しい昨今では、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが知恵を持ち寄らなければ、正しい意思決定ができないと考えていることがその理由です。

一人ひとりライフステージは違いますし、年齢、性別、スキルセットもバラバラな中で、それぞれが無理をせず、かつその時に自分ができるベストを尽くせるようなチームが理想です。真摯に頑張ることは当然のことである一方で、日によって、体調によって、ステージによって、出力レベルは人によって異なります。特定の個人の能力に依拠するのではなく、個々人にさまざまな差があることを当然の前提として、互いに足りない部分を補い合い、得意な部分をシェアし合うことによってチームを強くしていきたいと思っています。

他方、この考え方ではチームの総出力が日々変わることを許容することでもあるため、その変動に対して何も手を打たなければチーム運営は安定しません。そのため、この考え方を理想で終わらせずに実現するためには、弾力性の高いバッファーが必要になります。このためにも、やはり外部から安定的にチームを支えてくれるLEACTは、われわれにとって必要不可欠な存在です。

また、メンバー一人ひとりが、プライドや、帰属意識のようなものを持つに値するチームを作りたいとも思っています。簡単なことではありませんが、今のメンバーとであれば、それが実現できるのではないかと感じています。